糖尿病の服薬指導に必要な基礎知識を記載しました。
薬学生の国家試験にも使用できる内容です。
Contents
糖尿病の服薬指導 | 糖尿病とは
糖尿病とはインスリンの作用不足によって持続的な高血糖状態となり,代謝異常を示す症候群です。
代謝異常が長く続けば合併症にも繋がります。
大きく3つで考えられます。
- 肝臓
ブドウ糖をグリコーゲンに変換
ブドウ糖の血中への放出を抑制
タンパク質・脂肪,核酸の合成促進 - 筋肉
ブドウ糖の筋肉への取り込みを促進
ブドウ糖をグリコーゲンへ変換,エネルギー源として利用
タンパク質合成促進 - 脂肪組織
ブドウ糖の脂肪組織への取り込みを促進
脂肪合成の促進
などがあります
分類
糖尿病は1型と2型に大きく分けられます。
1型糖尿病
1型糖尿病はβ細胞が機能しないことによりインスリン分泌が低下している疾患です。
リンパ球が膵β細胞を攻撃して破壊するために起こっています。
2型糖尿病
2型糖尿病はインスリンの作用不足(分泌低下も一応含む)によって起こります。
インスリン分泌低下は遺伝的因子が危険因子
インスリン感受性低下は
生活習慣(食生活や運動不足),環境因子
が危険因子となって発症するとされています。
血糖値上昇に対する早期のインスリン分泌障害とインスリン抵抗性等により
インスリンの作用不足を起こして発症します。
他にも遺伝子異常や他の内分泌疾患
肝疾患
薬剤性や化学物質等
さまざまな要因が原因となり発症することもあります。
病態
1型糖尿病と2型糖尿病で原因が異なります。
- 1型糖尿病:インスリン依存によるもの(分泌異常)
- 2型糖尿病:インスリン非依存(抵抗性等)
症状
口渇,多飲,多尿,体重減少等
重症例では意識障害や昏睡状態にもなりうります。
また,合併症においては細小血管動脈硬化による三大合併症のほか,
大血管動脈硬化による合併症があります。
ケトーシスについてはβ酸化周辺の知識が必要になります
(https://www.pharma-informations.com/beta-oxidation/#i-8)
合併症
有名なものだと三大合併症があります。
三大合併症
糖尿病性腎症
初期症状としてはまず微量アルブミン尿が出現して,その後に血清クレアチニン値が上昇します。
この合併症によって、毎年1.6万人以上が新規透析導入となっています。
治療薬としては、ACE阻害薬が有名です。
通常は糖尿病罹患期間を経てアルブミン尿が出現してから糖尿病性腎症が診断されます。
糖尿病網膜症
失明の原因では第2位となる合併症です。(1位は緑内障)
高血糖によって網膜の毛細血管障害が引き起こされます。
バリア機能のある従来血液網膜関柵と呼ばれる血管が破綻して血管透過性が亢進します。進行期には毛細血管床が閉塞して無灌流域が形成→神経網膜の低酸素に反応して発現亢進した増殖因子によって血管新生が生じて増殖性変化を起こします。
血管内皮増殖因子(VEGF)が重要な因子であるとされています。
糖尿病神経障害
タンパク質の糖化反応やポリオール経路活性の亢進が関与していて、知覚異常が主な症状です。
ソルビトールの蓄積や,血流障害(細胞に栄養がいかなくなる)によって発症します。
下肢切断等の原因となっています。
治療薬としては
アルドース還元酵素阻害剤
抗酸化薬(ビタミンE)
プロスタグランジン製剤(血管拡張)
ビタミンB12,漢方薬等
痛みに対しては
三環系抗うつ薬
NSAIDs
SSRI
抗てんかん薬
メキシレチン(Naチャネル遮断により神経興奮抑制)
プレガバリン(Caチャネル遮断により神経伝達物質の遊離抑制)
等があります。

糖尿病性神経障害は多発神経障害(広汎性左右対称性遠位性神経障害)を典型として
感覚運動神経障害と自律神経障害が含まれます。
また,単神経障害(脳神経:動眼神経,滑車神経,外転神経,顔面神経)や四肢神経等の局所的神経障害を呈する場合もあります。
糖尿病性多発神経障害
両下肢のしびれや痛み,感覚異常を特徴とし,進行すると運動神経障害と進展します。
自律神経障害は心血管系や消化器系,泌尿器生殖器系,皮膚や瞳孔等の機能に異常を来して
起立性低血圧,下痢,発汗異常, 低血糖等を呈します(いろいろ起こるとイメージでOK)

その他合併症
ケトアシドーシス
症状としては
空腹感
口渇
頻尿
吐き気
呼吸苦
息が果実臭
血糖値500mg/dL以上
血液pH7.3未満
尿ケトン体(+)等があります。
インスリンが欠乏すると糖利用ができないため,脂肪酸からエネルギーを調達します
→ケトン体が過剰になることでアシドーシスとなります。
ケトーシスの理解についてはβ酸化周辺の知識が必要になります
(https://www.pharma-informations.com/beta-oxidation/#i-8)
治療としては,
生理食塩水点滴静注
インスリンの投与(カリウム値低下に注意)等があります。
大血管障害
糖尿病は程度が軽くとも(境界付近でも)動脈硬化性疾患のリスクを増加させます。
腹部肥満を土台とし,メタボリック症候群(耐糖能異常,高血圧,脂質異常症)
や喫煙症例では更にリスク上昇します。
動脈硬化が進む理由としては
脂肪細胞からのアディポネクチン産生低下が挙げられます。
診断基準
- 早朝空腹時血糖値126mg/dL≦
- 75gOGTT2時間値200mg/dL≦
- 随時血糖値200mg/dL≦
上記いずれか
+HbA1c6.5%≦
注意点としては,A1cの高値のみでは糖尿病の診断はできません。(異常ヘモグロビン症の可能性があるためとされています。)
治療目標
治療目標は、血糖や体重,血圧等をコントロールして合併症を予防することです。
目標値
HbA1c値7%>
空腹時血糖値130mg/dL>
食後2時間血糖値180mg/dL>
食事療法
男性1400~1800kcal
女性1200~1600kcal
を目安に設定します。
運動療法
ブドウ糖や脂肪酸の利用促進のほか、インスリン抵抗性改善効果が期待できます。
薬物療法
1型糖尿病
治療の中心は適切なインスリン補充で,基礎分泌と追加分泌補充を組み合わせた
強化インスリン療法を行ってインスリンの変動パターンを正常にしていきます。
インスリン分泌欠乏状態に近づくと血糖が激しく変動するようになります。
持続血糖測定・フラッシュグルコースモニタリング等によって血糖変動を確認して治療していきます。
栄養指導に置いてはカーボカウント(炭水化物摂取量から血糖上昇を考える)を用いることが多いです。
インスリン・カーボ比【炭水化物10g(1カーボ)に必要なインスリン単位】を決定してカーボカウントの指導を開始します。
2型糖尿病
食事療法と運動療法で血糖コントロールができない場合,血糖降下薬やインスリンを投与します。
また,低血糖となる可能性の低い薬剤による治療ではA1c6.0未満を目標としますが
低血糖リスクの高い薬剤や高齢者等では8.0未満を目標にする場合もあります。
検査・診断
検査
ヘモグロビンA1c
ヘモグロビンに糖が非酵素的に反応して共有結合したものです。
A1c値の測定は,採血時から過去1~2ヶ月間の平均血糖値を反映しています。
75g経口ブドウ糖負荷試験(75gOGTT)
一定量のブドウ糖水溶液を飲み,その結果血糖値やインスリンの推移を見ています。
HOMA-IR
空腹時インスリン値(μU)×空腹時血糖値(mg/dL)/405
インスリン抵抗性の指標の一つです。
1.6以下で正常
2.5以上でインスリン抵抗性がある
とされています
C-ペプチド(CPR)
インスリンの分泌量を見ています。
膵β細胞機能の指標
1型糖尿病鑑別の指標
として利用されます。
※インスリン+CPR=プロインスリン
フラッシュグルコースモニタリング(FGM:Flash Glucose Monitoring)は、CGMと同様に皮下の間質グルコース値を持続的に14日間測定できるセンサーを上腕に留置し、ICカードのように、センサーにリーダーをかざすことでその値を確認できる医療機器のことです。
https://japan-iddm.net/life-info/medicalcare/cgm/より
これにより、持続的なグルコース値測定が保険適用として可能になりました。
診断基準
診断基準については
診断基準のところに書いています。
治療
食事療法や運動療法をベースとして,場合によっては薬物治療も考えます。
治療目標
血糖や体重,血清脂質等のコントロールによって合併症を予防することです。
糖尿病の血糖管理では
HbA1c値7%未満
空腹時血糖値130mg/dL以下
食後2時間血糖値180mg/dL以下を目標とします。
ここで,高齢者糖尿病についてはカテゴリーによって目標が異なります。

より転載
また,コントロール目標値について言及すると
血糖の正常化を目指す場合の目標…A1c6.0未満
合併症予防のための目標…A1c7.0未満
とされていることはイメージできるようにしておいたほうが良いと思われます

妊娠中の血糖管理
妊娠中の血糖管理はインスリン(胎盤を通過しにくい)を使用するのが基本です。
朝食前血糖値70~100mg/dL
食後2時間血糖値120mg/dL未満
HbA1c6.2未満
手術時や術後は高血糖を起こしやすく,昏睡や感染症,創傷治癒のち円を防ぐために高血糖を200mg/dL未満を目標として治療します。
食事療法
適正なエネルギー量,栄養素のバランス,規則的な食事習慣を守ることが重要とされています。
栄養指導にはカーボカウント等があります。
栄養指導については本来栄養士が行うべきであると(筆者は)考えているので,
考え方の触りだけを書くことにします。
食事療法の基本
基本は
エネルギー摂取量
栄養バランス
食習慣の適正化です。
日本糖尿病学会では,
総エネルギーの約5-6割は炭水化物
タンパク質は2割以下
残りは脂質で摂取することを提言されています。
カーボカウントについて
これは食物の中で最も急激な血糖上昇を起こすのが炭水化物であるという事実から
食事中の炭水化物量を計算して血糖コントロールを行う方法を指します。
カーボカウントには基礎カーボカウントと応用カーボカウントがあります。
基礎カーボカウント
基礎カーボカウントは食事中の炭水化物量を毎食一定にすることで食後の血糖値上昇を安定化させるものです。
応用カーボカウント
応用カーボカウントは食事中の炭水化物量を計算することでインスリンの必要量を計算して血糖コントロールに活用するものです。
微量元素
糖代謝異常には微量元素の不足が関連していることがわかってきています。
一般的には糖尿病患者はクロムや亜鉛,セレンが不足していることがしめされており
動物実験でも糖尿病発症と関連があると示されています。
クロム
インスリンとインスリン受容体の結合力を高めます
亜鉛
インスリンの合成と分泌に関与します。
また亜鉛にもインスリン様作用があるとされています。
セレン
インスリン様作用のほかにも血管合併症に予防的に働くとされています(抗酸化作用)
運動療法
一日一万歩の歩行等が挙げられます。
効果としては,
血糖低下作用
インスリン抵抗性改善効果
筋力を保つ
等があります。
変化モデルステージ
運動についての考えの段階(変化ステージモデル)の内容を書いておきます。
前熟考期
運動の必要性を感じていない段階
熟考期
運動の必要性はわかっているがまだ迷っている段階
準備期
運動を始めようとした段階
実行期
散歩などを始めた段階
維持期
運動することが習慣化して,6ヶ月以上続いている状態
運動療法の注意
合併症のある患者では,運動強度を上げる前にメディカルチェックをすることが重要です。
糖尿病網膜症
血圧上昇は糖尿病網膜症の悪化をさせることがあるため、注意が必要です。
また黄斑症や増殖網膜症,硝子体出血を認めるときは運動禁忌です。
2 型糖尿病患者における血圧コントロールは糖尿病網膜症の発症・進行を抑止するうえで有 効である 21~23)
血圧は糖尿病網膜症の発症・進行における有意なリスクファクターであり 24, 25),日本人 2 型 糖尿病患者を対象とした多施設コホート研究の JDCS でも確認されている 26).
2 型糖尿病を対象とした UKPDS においては収縮期血圧目標を 150 mmHg 未満とした降圧 療法は 180 mmHg 未満とした降圧療法と比べ網膜症に進行を抑制した
http://www.fa.kyorin.co.jp/jds/uploads/gl/GL2019-08.pdf
糖尿病性自律神経障害
運動後低血圧や低血糖等に注意が必要です
心血管障害
無症候性心筋虚血を有することがあります。運動強度を早足ウォーキング等に上げる際にはメディカルチェックが必要です。
感覚神経障害
微細な骨折などがあっても気づかずに変形を来すことがあるので注意が必要です
薬物療法
1型糖尿病
インスリン製剤の投与を開始します
2型糖尿病
食事・運動療法を〜3ヶ月続けても血糖コントロールが不良の場合には血糖降下薬やインスリン製剤を考慮します。
インスリン療法
1型糖尿病
妊娠中or妊娠希望患者でインスリン治療が必要な場合
脾臓摘出術を受けた患者
2型糖尿病で経口薬だけでは良好な血糖コントロールができない場合等に使用されます。
インスリンの皮下吸収に影響を及ぼす因子を挙げておきます
インスリン皮下吸収に影響を及ぼす因子
因子 | 吸収速度 |
部位 | 腹壁>上腕>大腿 |
深度 | 筋肉>皮下>皮内 |
運動やマッサージ | 速くなる |
温度 | 高温のほうが速い |
喫煙 | 遅延 |
投与量 | 少量>多量 |
p155
CSIIとは
強化インスリン療法の1種で,携帯型ポンプを用いてインスリンを持続的に皮下注入する治療。
皮下脂肪に入れた管から微量のインスリンを24時間持続注入し続け(基礎分泌分)て
食事前等にはスイッチを押して追加注入します。
強化インスリン療法導入前ステップとしてBOT,BPTが普及しています。
インスリン絶対適応
1型糖尿病の疑い
高血糖緊急症(2型のケトアシドーシス等をイメージすると簡単かと思われます)
重症の肝障害や腎障害
重症感染症の合併や中等度以上の外科手術予定
糖尿病合併妊娠
などがあります。
経口血糖降下薬と持続型インスリンの一日一回注射法の併用療法
持続型インスリンで空腹時血糖コントロール
GLP-1受容体作動薬で食後血糖をコントロールする併用療法のこと
経口血糖降下薬
初期治療としてのイメージとしては(今日の治療指針2019を参照)
①80歳以上の高齢者やeGFRが低下していない場合
→メトホルミンが第一選択
効果不十分な場合は
メトホルミン増量(肥満例)or
DPP-4阻害薬(非肥満例)
またはSGLT2阻害薬の追加(心血管イベント既往等を考慮)
②高齢者やCKDの場合
→DPP-4阻害薬を第一選択(低血糖リスクが低く,腎機能低下患者にも使いやすい)
効果不十分の場合
速攻型インスリン分泌促進薬等を考慮します。

SU薬
インスリン分泌が不足してHbA1c7.0以上の時に使用します。
高度の肥満等インスリン抵抗性の強い患者には作用機序的に微妙ですが,グリメピリドはインスリン感受性増強作用を持っており,肥満誘発を防ぐとされています。
速攻型インスリン分泌促進薬
インスリン分泌不足時でA1c7.0%以上のときの食後高血糖に使用します。
初期の糖尿病に使用されることが多いようです。
ビグアナイド系
インスリン抵抗性を認める場合に,SU剤やインスリン治療への併用で効果が期待できるようです。
体重が増加しにくく,肥満患者に使用しやすいとされています。
αグルコシダーゼ阻害薬
食後高血糖に対して効果が期待できます。
チアゾリジン系統
インスリンの抵抗性の改善効果があります。
心血管イベントの発症抑制の意図もあるかと思います(筆)
DPP-4阻害薬
インスリン分泌不全の2型糖尿病患者が適していまう。
食後高血糖,インスリン抵抗性タイプにたいしても有効です。
SGLT2阻害薬
体重減少や血圧低下,アディポネクチン増加等が期待されて(肥満+インスリン抵抗性例)にもよく使用されます。
心不全・心血管脂肪や総死亡の抑制,eGFR低下や尿蛋白の進展抑制等の腎障害の抑制のエビデンスが示されています。
また,合併症抑制効果
GLP-1受容体作動薬
作用機序的にインスリン分泌不全の2型糖尿病に対して効果的です(筆)
この薬にも体重減少効果があるともされています。
低血糖
血糖降下薬(特に直接血糖を下げる効果を持つインスリンやSU剤)では起こる可能性があります。
成人では血糖値が70mg/dLを下回ると低血糖として対応します
症状としては
頻脈
振戦
発汗
めまいが見られることが多いです。
対処法としては、ブドウ糖やショ糖を10g程度摂取してもらいます
αグルコシダーゼ阻害薬服用中の患者の場合は作用機序的にブドウ糖以外は不可です。
参考
今日の治療指針2019
薬物治療学改訂9版
処方がわかる臨床薬理学2018-2019
最後に
薬局業界や医療業界についてのテーマを扱ったり、
服薬指導や生化学等の基本的内容を記事にしたりしています。
また、気になる話題とかSNSにコメント頂けると記事にすることがあるかもしれません。
薬学部生のように業界のトレンドとか全然わからない方はフォロー頂けると
薬剤師界隈でのトレンドとかつぶやいてるので、良いかなと思います。
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以上です。
関連記事も含めて色々書いてあるので一番下まで読んで頂けると幸いです