今回は鉄剤(クエン酸第一鉄)について書いていきます。
服薬指導とか注意点とかサラッとおさらいするための記事です。

適応としては、鉄欠乏性貧血に使用されます。
鉄の各論については詳しく書いてるのでこちらを参照ください→鉄について(各論)

※各論としての鉄欠乏性貧血については現在執筆中です。

クエン酸第一鉄の各論 | 服薬指導や考え方

参考となる類似化合物
クエン酸第一鉄の服薬指導(詳しく書いてます)
フマル酸第一鉄

注意点
記事は基本的に筆者の備忘録であり、私なりの考えを記載する部分があります。その場合は基本的には根拠を示していますのでそれを正しいとするか、正しくないと判断するかは皆さんのアセスメントです。どう判断するか(妥当性)は皆さんが今までに培った薬学的知識と考察力ということでご自身が責任をもって服薬指導にあたってください。

製剤的な特性

フェロミアは可溶性の非イオン型クエン酸第一鉄ナトリウムを主剤とする鉄欠乏性貧血治療剤である。 クエン酸第一鉄ナトリウムは酸性から塩基性に至る広い pH 域で溶解する。弱酸から塩基性側でイオン 鉄のような吸収されにくい不溶性高分子ポリマーを形成せず低分子キレートのまま吸収されるため、 腸管吸収が良好である。そのため胃酸分泌の低下している高齢者や、低酸症及び胃切除者でも良く吸 収される。 本剤は非イオン型鉄剤であるので、胃腸粘膜を刺激する鉄イオンを遊離しにくい。従って胃腸粘膜に 対する刺激が少ないことが、ラットの実験により認められている。 錠剤は、鉄味防止コーティングを施してあり口中では崩壊せず、胃中で崩壊溶出する。 顆粒剤は、矯味剤によって鉄味をマスキングした。コーティング剤を使用していないので水に溶けや すく服用がしやすい。

フェロミアIF

酸性だけでなく中性〜塩基性でも可溶化されるため、制酸剤の投与中でも吸収が落ちにくいと考えられます。
(胃中で崩壊溶出するという記載があるため、PPI等の投与によりpHが上がっている条件では崩壊溶出するのか?という疑問は残りますが、胃切除後半年経過鉄欠乏性貧血患者への投与で治療効果が見られたとIFに記載があったので問題ないと思われます)

クエン酸第一鉄は鉄イオンとしては2価イオンのため、吸収効率を上げる還元性物質が必要ないと考えられます筆)

逆に言えば服薬指導において
鉄の中性条件の可溶化を促進させるラクトフェリンやカゼインホスホペプチドは必要なく
第一鉄への還元を促進するビタミンCの服用も必要ないと考えられます筆)

相互作用・サプリメント等の注意点

添付文書に書いてあるものと、書いてないものがありますのでまとめて説明します。

便の黒色化

鉄剤一般的に便が黒くなります。

お茶やコーヒーで飲まない

着色することがあります。

本剤の投与により歯が一時的に着色(茶褐色)することがある

唾液由来の皮膜やプラークに鉄イオン、タンニン酸が結合することにより着色するものと考えられています。
この予防のためには
さっさと飲む(口腔内に留まらせない)、タンニン酸含有物(お茶やコーヒー)3)
で飲まない、歯磨きをわすれないようにする
などがあります。※ここで、バナナにもタンニン様物質が含まれているということ4)から、鉄剤服用前後にはバナナバナナジュースを飲まないという服薬指導も有効かなと考えています筆)
他にも有名所だとタンニン含有飲食品は、ぶどう(ワイン)6)がありますし、医薬品のタンニン酸アルブミンは特にそうですので、同時服用があればちゃんと歯磨きをさせたほうがいいと考えられます筆)
他にも、渋柿イナゴマメにもタンニンが含まれていると言われています5)
また、仮に歯の着色があったとしても重曹等で歯磨きを行うことで改善されるとされています。
硫酸鉄製剤とはタンニン酸の摂取非推奨の理由が異なるので、その点について注意しましょう

動物性食品を多く摂る

ヘム鉄は効率よく吸収されます。ヘム鉄動物性食品(肉類)に含まれるので、多く摂ることで鉄分補給の助けとなります筆)

吸収の阻害をする食品やミネラル

食肉タンパク質およびビタミンC非ヘム鉄の吸収を向上させるタンニン(お茶に含まれる)、カルシウムポリフェノール類フィチン酸塩(豆科植物および全粒穀物に含まれる)は非ヘム鉄の吸収を低下させる[1,19-24]。大豆に含まれるタンパク質の一部も非ヘム鉄の吸収を阻害するといわれています。

牛乳

牛乳一杯と飲むと鉄の吸収が下がると別記事で説明しましたが(鉄|各論)、
牛乳と飲んでも良いという考え方2)もあり、どちらでもよいのかもしれません。
私個人としては、治療に影響がでる可能性があるなら控えるに越したことはないと思います筆)

食品含有量

表1:ヘム鉄源となる食品と含有量[10]
食品(1オンスは約28g)1食分あたりの
ミリグラム数
% DV*
鶏レバー、ソテー、3オンス(約85g)11.061
牡蛎、缶詰、3オンス(約85g)5.732
牛レバー、ソテー、3オンス(約85g)5.229
牛肩ロース、ロースト用切り身、赤身肉のみ、蒸し煮、3オンス(約85g)3.117
七面鳥、腿肉ロースト、3オンス(約85g)2.011
牛挽肉(赤身85%)焼きパテ、3オンス(約85g)2.212
牛、トップ・サーロインステーキ、赤身肉のみ、3オンス(約85g)1.69
ライトツナ水煮缶、3オンス(約85g)1.37
七面鳥、胸肉ロースト、3オンス1.16
鶏腿肉ロースト(皮なし)、3オンス(約85g)1.16
鶏胸肉ロースト(皮なし)、3オンス(約85g)0.95
新鮮なキハダマグロ、乾式加熱済み、 3オンス(約85g)0.84
アラスカ産タラバ蟹、湿式加熱済み、3オンス(約85g)0.74
豚背厚切り肉、直火焼き、3オンス(約85g)0.74
エビ(混合種)、湿式加熱済み、大4尾0.32
オヒョウ、乾式加熱済み、3オンス(約85g)0.21
表2:非ヘム鉄源となる食品と含有量[10]
食品(1カップは240ml)1食分あたりの
ミリグラム数
% DV*
インスタントシリアル、100%鉄分強化、3/4カップ (180ml)18.0100
インスタント強化オートミール、水で調理、1袋11.061
成熟大豆(茹で)、1カップ (240ml)8.848
レンズ豆(茹で)、1カップ(240ml)6.637
成熟赤インゲン豆(茹で)、1カップ(240ml)5.229
成熟ライ豆、大(茹で)、1カップ(240ml)4.525
インスタントシリアル、25%鉄分強化、3/4カップ4.525
成熟黒目豆(ササゲ)(茹で)、1カップ(240ml)4.324
成熟白インゲン豆(茹で)、1カップ(240ml)4.324
成熟黒インゲン豆(茹で)、1カップ(240ml)3.620
成熟ウズラ豆、(茹で)1カップ (240ml)3.621
木綿豆腐、生、1/2カップ(120ml)3.419
新鮮ホウレンソウ(茹で)、水切り済、1/2カップ(120ml)3.218
ホウレンソウ缶詰、水切り済固形部分、1/2カップ(120ml)2.514
冷凍ホウレンソウ(茹で)、刻みまたは丸ごと、1/2カップ(120ml)1.911
種なしレーズン、装/箱入り、1/2カップ(120ml)1.69
強化精製コーングリッツ、水でインスタント調理、1カップ(240ml)1.58
糖蜜、大さじ1杯0.95
市販精製パン、1枚0.95
市販全粒粉パン、1枚0.74

*DV = 1日摂取量。DVは、消費者が食品中の特定の栄養素の量を判断する際の参考として米国食品医薬品局(FDA)が定めた値である。FDAは、あらゆる食品ラベルに鉄のパーセントDV(%DV)の表記を義務づけている。%DVは、1食分にDVの何%が含まれているかを示している。鉄のDVは18ミリグラム(mg)である。DVの5%以下を含む食品が低量摂取源であるのに対し、DVの10~19%を含む食品であれば優れた摂取源であるといえる。DVの20%以上を含む食品であれば、その栄養素の栄養価が高いといえる。%DVが低い食品であっても、健康な食事に寄与していることに留意することが重要である。

参考
https://www.ejim.ncgg.go.jp/pro/overseas/c03/07.html

治療効果フェロミアIF)

IFからのデータです

胃酸分泌に影響なしに血清鉄を上昇させる

健康なラット及びウサギ並びに貧血ウサギにおいて、本薬は硫酸鉄水和物あるいはフマル酸第一 鉄とほぼ同等の血清鉄上昇効果を示した。イヌにおいて、本剤は食後投与でも血清鉄の上昇を示 した。さらに、本薬の血清鉄上昇効果は、胃酸分泌を抑制したラットにおいても認められ、胃酸 の影響を比較的受けにくい IF)

ヘモグロビンと貯蔵鉄の回復により貧血状態を改善する

鉄欠乏食で飼育した瀉血貧血ラットに、本薬 30mg/kg/日を 18 日間連続投与した後、顕著なヘモグロビン回復効果が認められた。また、肝臓及び脾臓中の鉄含有量がそれぞれ対照に比べて有 意に上昇し、貯蔵鉄補充効果が認められた。さらに血清鉄及び血清鉄飽和率の低下並びに総鉄結合能(TIBC)の上昇を改善した。

タンニン酸を含有する食品との相互作用について 本剤では、タンニン酸を含有する食品により吸収が阻害されたとの報告はないが、鉄剤服用に際し、 緑茶、コーヒー等のタンニン酸を含有する飲料を摂取した場合、タンニン酸と鉄が高分子キレート を形成し吸収が阻害されることが報告されている。硫酸鉄水和物製剤では、鉄剤とタンニン酸又は 緑茶を同時服用したところ、鉄吸収率はタンニン酸で約 1/2、緑茶で 2/3 に低下したとの臨床報 告がある。 () 本剤では、in vitro でクエン酸第一鉄ナトリウムとタンニン酸を混合し、分子量 10,000 以下を限外 ろ過した結果、4 時間後で約 45%、24 時間後で約 50%の高分子鉄キレートを形成したとの報告が ある一方、鉄欠乏性貧血患者において、クエン酸第一鉄ナトリウムを水と緑茶による服用を検討し た結果、鉄吸収と貧血改善効果に影響しないとの報告もある。

フェロミアIF

クエン酸第一鉄ではタンニン酸による吸収への影響はないとされています

個人的な疑問点や考察

鉄欠乏性貧血の治療に用いられる鉄剤は、経口剤と非経口剤に区分されるが、鉄欠乏性貧血の治療は 経口剤によることが原則である。経口鉄剤による治療上の問題は、消化器症状を主とする副作用によ りしばしば服薬の継続が困難となることにある。また、今日では徐放性の経口鉄剤が開発されている が、徐放性鉄剤の多くは胃液の酸度により崩壊や溶出が左右されやすく、そのため胃で崩壊せず、腸 管の吸収部位を通過してから鉄が放出されて治療効果が得られない場合もある。鉄の吸収は胃液の酸 度に影響され、酸性では鉄は速やかに解離して吸収されるが、低酸状態では解離されても不溶性の高 分子水酸化鉄コロイドを形成しやすくなるので、吸収が悪い。したがって、理想的鉄剤の条件は、酸 度に影響されず溶解し、かつ副作用の少ない化合物を主剤としたものであると考えられる。 クエン酸第一鉄ナトリウムは、鉄の腸管吸収機序に関する研究の中から見出されたもので、酸性から 塩基性に至る広い pH 域で溶解し、中性から塩基性溶液中でも腸管吸収が可能な可溶性低分子鉄として 溶存する特性を有する。そのため低酸状態でも吸収され、胃粘膜に対する刺激や食事の影響による吸 収の低下が少ないことが推察できた。また、これまで服用しにくかった顆粒剤については、溶け易さ と鉄味のマスキングの改良に成功し、服用し易い製剤となった。フェロミア錠・顆粒は 1985 年 3 月に承認申請し、1986 年 9 月に承認され 12 月に発売されるに至った。 市販後においては、再審査期間が終了し、1995 年 6 月の再審査結果により、その有効性及び安全性が 確認された。その後、2007 年 8 月には医療事故防止対策に伴い、フェロミア顆粒はフェロミア顆粒 8.3% として製造販売承認され、現在に至っている。

フェロミアIF

鉄は小腸上部付近で吸収されるので、「酸性では鉄は速やかに解離して吸収される」というのは本当なのかな?どうなんですかねって思います。
鉄が吸収されるのは小腸上部ですが、「酸性で速やかに解離して吸収」だとまるで胃で吸収されるかのような書き方だと思います。
ただ、小腸上部は胃から近い部分なので、腸の中でも比較的酸性に近い部分です。
ファーター乳頭の場所は十二指腸に合流しているようなので1)
ファーター乳頭までの部分の吸収に関する文言とするなら納得はいきますね。

あと、クエン酸第一鉄が非イオン性となっていると書かれてありましたが、構造式をみると二価イオンの形を取っていました。ただ、分子全体としての電荷は0でした。

だいたいこんな感じかなと思います。
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以上です。

関連記事も含めて色々書いてあるので一番下まで読んで頂けると幸いです

1)国立がん研究センター
2)フェロミアQ&A(医療関係者でないとアクセスできないようなので、直リンクはしてません)
3)飲料とお茶の相互作用
4)バナナ等抽出物を有効成分とする非エンベロープウイルスに対する抗ウイルス剤
5)小児の服薬指導 松本康弘p234
6)ワインの品質とフェノール化合物

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