医薬品個々としての各論を説明していきます。
Contents
イリノテカンの服薬指導・注意点等|SN38や副作用対策等
服薬指導や注意点等を書いてます。
一応、薬学生の国試の範囲もそこそこカバーしてるかなって感じのボリュームにしてます。
対象の層としては、化学療法名がわかった薬局薬剤師が、
「服薬指導前にちょっと読む」
くらいの目標のテンションで書いてます。
主な商品名
イリノテカン
カンプト
トポテシン
などがあります。1)
主な副作用と時期
治療開始 3日目 7日目 10日目 14日目 21日目
食欲不振 骨髄抑制
早発性下痢 遅発性下痢
悪心・嘔吐 倦怠感 脱毛
がん治療薬まるわかりbook P125より
モバイル用
治療開始〜当日以内
早発性下痢、悪心嘔吐等
3日目〜1週間ちょいくらい
食欲不振、遅発性下痢、倦怠感等
10日目移行〜
骨髄抑制
3週間以降
脱毛
ケアのポイント10)
催吐リスクについて
投与リスクは中等度
投与前に5-HT3拮抗薬、投与1~3日目はデキサメタゾン8mgを投与
下痢について
下痢は早発性下痢と遅発性下痢があり、機序が異なります
早発性下痢(投与開始〜直後)
コリン作動性によって腸蠕動が亢進されて出現するとされています。
アトロピン静注でコントロールが可能です。
遅発性下痢(投与3~6日)
SN-38による腸管粘膜障害が原因とされています。
重症化しないように観察し、早期対処が重要です。
対処には大量ロペラミド療法、予防には半夏瀉心湯、重炭酸ナトリウムの投与(腸内のアルカリ化)12)
治療初期の便秘防止
があります。
骨髄抑制・下痢の早期発見と対応|薬局で大事になります
服薬指導でアプローチをかけるのはこのあたりになります
骨髄抑制
白血球減少のピークは10~14日(2週間後くらい)で、回復には7日ほど必要となります。
白血球減少時に下痢を引き起こすと重篤な感染症を起こすことにもなり得ます。
特に2コース目移行はそれらのSEが重なる可能性もあるため、治療時の白血球減少の推移と下痢の状況の確認はしておく必要があります
※服薬指導と指導の注意点(特に病院)
薬局でも説明はするに越したことはないです
服薬指導
感染予防についての指導
排便回数の増加、水様性下痢・発熱時は連絡するように説明
注意点
投与初期は毎日の排便を確保することが重要
早発性下痢のときに止痢薬を使用すると、便が滞留してSN-38が遅発性下痢を起こすと言われているためです。
併用注意(全部ではないです)
主にUGTと代謝酵素によるものです
UGT1A1関連
アタザナビル硫酸塩(レイアタッツ) 禁忌
ソラフェニブ ラパチニブ レゴラフェニブ 血中濃度上昇
CYP3A4関連
阻害系
アゾール系抗真菌薬
マクロライド系(エリスロマイシン、クラリスロマイシン 等)
リトナビル
ジルチアゼム塩酸塩
ニフェジピン
モザバプタン塩酸塩等
グレープフルーツジュース
誘導系
フェニトイン
カルバマゼピン
リファンピシン
フェノバルビタール
等
あとはセイヨウオトギリソウ(セントジョーンズワート)等
減量基準
減量基準には、好中球減少・下痢・血小板減少・総ビリルビン上昇・粘膜炎・手足症候群
があります(添付文書より)
好中球減少
以下のいずれかの条件 を満たす場合減量
1 )2 クール目以降の 投与可能条件を満 たさず投与を延期
2 )500/mm3未満が 7 日 以上持続
3 )感染症又は下痢を 併発し、かつ1,000/ mm3未満
4 )発熱性好中球減少症
下痢:フルオロウラシルを減量
発熱(38°C以上)を伴う
下痢グレード 3 以上(CTCAE version4.0)
※グレードについて、CATAEバージョンが手元に5しかございませんでして、申し訳ありませんが5で書いております
下痢グレード(1は不要と考え、省略)
グレード | 2 | 3 |
BLと比して4~6回の 排便増加。また、 BLと比して人工肛門 からの排泄量の 中等度増加; 身の回り以外の 日常生活動作の制限 | BLと比して7回以上 の排便回数増加: 入院を要する: BLと比して人工肛門 からの排便量の高度増加 |
血小板減少:オキサリプラチンを優先的に減量
以下のいずれかの条件 を満たす場合:
1 )2 クール目以降の 投与可能条件を満 たさず投与を延期
2 )50,000/mm3未満
総ビリルビン上昇
2.0mg/dL 超 3.0mg/dL 以下 | 本剤を120mg/m2に減量 する |
3.0mg/dL超 | 本剤を90mg/m2に減量 する。 |
粘膜炎:GrⅢ異常でフルオロウラシル持続を減量
名前/Gr | 1 | 2 | 3 |
肛門粘膜炎 | 症状がない, または 軽度の症状; 治療を 要さない | 症状がある; 内科的 治療を要する; 身の 回り以外の日常生活 動作の制限 | 高度の症状; 身の回 りの日常生活動作の 制限 |
口腔粘膜炎 | 症状がない, または 軽度の症状; 治療を 要さない | 経口摂取に支障がな い中等度の疼痛また は潰瘍; 食事の変更 を要する | 高度の疼痛; 経口摂 取に支障がある |
直腸粘膜炎 | 症状がない, または 軽度の症状; 治療を 要さない | 症状がある; 内科的 治療を要する; 身の 回り以外の日常生活 動作の制限 | 高度の症状; 身の回 りの日常生活動作の 制限 |
小腸粘膜炎 | 症状がない, または 軽度の症状; 治療を 要さない | 症状がある; 内科的 治療を要する; 身の 回り以外の日常生活 動作の制限 | 高度の疼痛; 経口摂 取に支障がある; 経 管栄養/TPN/入院を 要する; 身の回りの 日常生活動作の制限 |
喉頭粘膜炎 | 内視鏡的所見のみ; 通常の経口摂取が可 能な軽度の不快感 | 中等度の疼痛; 鎮痛 薬を要する; 経口摂 取の変化; 身の回り 以外の日常生活動作 の制限 | 高度の疼痛; 摂食/嚥 下に高度の変化があ る; 内科的治療を要 する |
気管粘膜炎 | 内視鏡的所見のみ; 軽微な喀血/疼痛/呼 吸症状 | 中等度の症状; 内科 的治療を要する; 身 の回り以外の日常生 活動作の制限 | 高度の疼痛; 出血/呼 吸症状; 身の回りの 日常生活動作の制限 |
手足症候群:Gr3以上でフルオロウラシル持続を減量する
Gr1 | 2 | 3 | |
手掌・足底発赤知覚 不全症候群 | 疼痛を伴わない軽微 な皮膚の変化または 皮膚炎(例: 紅斑, 浮 腫, 角質増殖症) | 疼痛を伴う皮膚の変 化(例: 角層剥離, 水 疱, 出血, 亀裂, 浮腫, 角質増殖症); 身の 回り以外の日常生活 動作の制限 | 疼痛を伴う高度の皮 膚の変化(例: 角層 剥離, 水疱, 出血, 亀 裂, 浮腫, 角質増殖 症); 身の回りの日常 生活動作の制限 |
作用機序
カンプトテシン類と呼ばれる中国産カンポテカ木から分離された植物性アルカロイド3)です。
トポイソメラーゼⅠ阻害作用
代謝酵素CYP3A4によって活性代謝物SN-38に変換され、
トポイソメラーゼ1を阻害することで
DNA超らせん構造の弛緩阻害+DNA断片化により細胞死を誘導します。
主にS期に作用します2)
また、SN-38のトポイソメラーゼ1阻害作用はイリノテカンの約1000倍3)と言われています
代謝や特徴等

催吐リスクは中等度で、10)用量制限毒性は白血球減少と下痢です。
イリノテカンはプロドラッグ
代謝により、活性体(SN-38)となります。
作用機序のところではCYP3A4により活性代謝物へと変換されると書きましたが、
3A4は無毒化にも関わるよう8)です
そのため、3A4を強く誘導または阻害する薬物・食品(GFJ等)は控えたり、もし使用するならば体調の確認等はしておく必要があります。
遺伝子多型
SN-38の解毒(グルクロン酸抱合)に関わるUGT1A1について。
この酵素は遺伝子多型が存在するといわれており8),UGT1A1の活性が低い人では解毒がしにくくなり、毒性が出やすくなります。
これにより、UGT1A1に影響を与える薬物(アタザナビル、レゴラフェニブ、ソラフェニブ)は監査時に要確認なわけです。(アタザナビルは併用禁忌)
そのため、ビリルビンUDP-グ ルクロン酸転移酵素遺伝子(UGT1A1)の変異がみられるジルベール症候群9)の患者では投与を検討する必要があります
参考:ジルベール症候群
参考:Gilbert 症候群とは
8)イリノテカン適正使用ガイド
Gilbert 症候群は、1901 年にフランスの医師 Nicolas Augustin Gilbert らによって初めて報告された疾患 です。この疾患は、間接ビリルビンが増加する家族性の非抱合型高ビリルビン血症で体質性黄疸の1つとして 分類されています。
この疾患においては、血清ビリルビン値は通常 5mg/dL 以下で、通常は偶然発見されることが多く、肝生検 によって UGT の低下が認められます。肝機能検査ではビリルビン値以外は正常で、肝組織所見でも特有の所 見はみられません。予後良好な疾患で、治療の必要はないとされています。
代謝経路
SN-38は、肝臓でグルクロン酸抱合を受けてSN-38Gとなり、胆汁中に排泄されます。
SN-38Gは腸内細菌のもつβグルクロニダーゼによって脱抱合され、
再度SN-38となって再吸収されて血液に戻ります。
その他
イリノテカン(SN-38)は、pHがアルカリに傾く事により、ラクトン体よりもカルボン酸体が優位になります。カルボン酸イオンのような極性が高い状態になると細胞内移行性が低下し、粘膜障害性下痢の副作用が軽減されるとされています12)
副作用について
イリノテカンはコリン作動性の下痢と
腸管粘膜障害による下痢がある
コリン作動性の下痢は投与日から数日以内、腸管粘膜障害性の下痢は1週間〜3週間ほどで発現します。5)
コリン作動性下痢
これはイリノテカンの構造に含まれるカルバモイル基によるコリンエステラーゼ阻害作用によって体内で過剰となったアセチルコリンが原因であると考えられています。
(SN-38の寄与は弱い)
カルバモイル基
○で囲った部分がコリンエステラーゼ作用を示しています。

コリン様症状は, 未変化体である CPT-11 のカルバモイル基が AChE 阻害作用を示すため起こるとされており,8)
進行膵がん患者に対するFOLFIRINOX療法施行時における コリン様症状の発現状況とリスク因子の探索
(https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjphcs/44/8/44_403/_pdf/-char/en)より
2)コリン様作用
82)一般薬理試験において、CPT-11 がコリン様作用を有することが示され、また臨床試 験においてもコリン様作用を示唆する投与直後の消化器障害(下痢、嘔吐)、発汗等 が認められたため、CPT-11 のアセチルコリンエステラーゼ阻害作用及びアセチルコ リン受容体への結合能を検討した。
1アセチルコリンエステラーゼ阻害作用CPT-11 の各濃度におけるヨウ化アセチルチオコリン濃度とそのアセチルコリンエ ステラーゼによる分解速度(⊿A/min)の関係を Lineweaver-Burkplot により解析し た結果、阻害定数(Ki 値)は 2~3×10-7mol/L となり、CPT-11 は低濃度でアセチル コリンエステラーゼを阻害することが示された。また、各直線が X 軸上で交差した ことから本阻害作用は非競合的であると考えられた。活性代謝物 SN-38 についても 同様に解析したところ、Ki 値は約 5×10-4mol/L であり、CPT-11 の約 1/1,000 の阻 害活性であることが示された。 以上の結果より、CPT-11は臨床投与量でアセチルコリンエステラーゼを阻害し得る が、SN-38 による阻害作用はないと考えられた。
https://www.info.pmda.go.jp/go/interview/1/800015_4240404A1040_1_011_1F.pdfより引用
1.本剤の消化管運動亢進作用にもとづく下痢
本剤の一般薬理作用として、アセチルコリンの分解酵素であるアセチルコリンエステラー ゼを阻害することが知られている 82)。また、イヌにおける消化管系に対する作用として 胃腸管運動の亢進作用が認められている 83)。これらのことから、本剤の下痢誘発機序の ひとつとして、本剤が抗コリンエステラーゼ作用を介して副交感神経活性亢進様作用を示 し、胃腸管運動を亢進させ、下痢を誘発させる機序が考えられている。なお、活性代謝物 である SN-38 の抗コリンエステラーゼ作用は本剤に比べて弱く(約 1/1,000)本剤の臨床 投与量では、SN-38 の本作用への関与はないものと考えられる。
https://www.info.pmda.go.jp/go/interview/1/800015_4240404A1040_1_011_1F.pdfより引用
遅発性下痢
イリノテカンの腸管粘膜障害下痢の発現機序は、代謝物であるSN-38によるものです。
①イリノテカン塩酸塩がエステラーゼ等によって、SN-38に変換される
②肝臓で「グルクロニルトランスフェラーゼ」によってグルクロン酸抱合され、ることで「SN-38グルクロン酸抱合体」となります
③これが腸管へ運ばれ、βグルクロニダーゼにより、抱合が解除されることで腸管に現れる「SN-38」が腸の細胞(腸管粘膜)を破壊することで起こります。
イリノテカンの下痢は、この腸管粘膜を出していくような下痢になるわけです。
2.活性代謝物 SN-38 による消化管の細胞傷害性にもとづく下痢イヌの反復投与毒性試験において、本剤の主薬理作用である細胞増殖抑制作用にもとづく ものと考えられる腸管粘膜傷害に起因する血便が観察されている 84)。
一方、本剤は主に 肝のカルボキシルエステラーゼにより活性本体である SN-38 に変換され、グルクロン酸転 移酵素(UGT)によってグルクロン酸抱合されて胆汁中へ排泄される。胆汁から排泄され た SN-38 グルクロン酸抱合体(SN-38G)は腸内細菌のβ-グルクロニダーゼによって脱抱 合され再び活性体SN-38となる。
これらのことから、活性代謝物SN-38が腸管粘膜を傷害 し、下痢を誘発するという機序も考えられている。
SN-38G の脱抱合を阻害することによ って下痢の発現を阻止できるのではないかという仮説をもとに、SN-38G を基質として加 水分解酵素であるβ-グルクロニダーゼの阻害剤の検討を実施した。その結果、バイカリ ンなど生薬成分のグルクロン酸抱合体がβ-グルクロニダーゼ阻害活性を有することを見 出した 85)。また、生薬成分のグルクロン酸抱合体及びそのアグリコンは、グルクロン酸 転移酵素(UGT)を阻害し、SN-38 のグルクロン酸抱合化を阻害することも見出した 62)。 これらのことから、半夏瀉心湯などの天然のグルクロン酸抱合体とそのアグリコンを含む生薬は、SN-38のグルクロン酸抱合体形成の過程及びSN-38のグルクロン酸抱合体の加水 分解の過程を阻害し、活性代謝物 SN-38 の腸管への蓄積を阻害する作用を有すると考察さ れ半夏瀉心湯による下痢防止の可能性が示唆された
https://www.info.pmda.go.jp/go/interview/1/800015_4240404A1040_1_011_1F.pdfより引用
対応策
腸管でSN-38を生成しないようにするために、
①βグルクロニダーゼを産生する菌を特異的に殺菌する抗生物質を投与
②βグルクロニダーゼを競合的に拮抗させる
方法が考えられますが、現実的なのは②ですよね。
βグルクロニダーゼを拮抗させる方法
簡単です。グルクロン酸抱合体を構造にもつ化合物をたくさん入れれば良いんです。
ここでは、漢方を入れるのが現実的です。
例えばバイカリン・ワゴノシド・グリチルリチンを代表として、漢方成分にはグルクロン酸抱合体をもつものがたくさんあります。
生薬単位でいえば黄芩や甘草ですね。
漢方で言えば、半夏瀉心湯7)がコリン作動性・粘膜障害性両方の下痢に対して効果が見られたというお話もあります。
また、大建中湯6)も粘膜障害を抑えたというデータもあるそうです(が、私は文献を見つけられませんでした…ので、大建中湯は定かではありません)
1)治療薬マニュアル2019 p1733
2)最新薬理学p617
3)イラストレイテッド薬理学 原書3版
4)ラングデール薬理学原書8版
5)https://med.sawai.co.jp/oncology/management/vol_01.html
6)MPラーニング 漢方薬の医薬品情報と服薬指導(2)ASCOや日本がん治療学会で発表されていたとのこと
7)https://www.kampo-s.jp/study/special/oncology-kampo/member/front/study_detail_7.htm
8)イリノテカン適正使用ガイド
9)Gilbert症 候群 と血液疾患
10)がん治療薬まるわかりbook p124-125
11)癌化学療法における薬物体内動態解析に関する研究(参考
12)副作用対策講座