久しぶりにこの話題がでました。

反省点はいくらでもありますが、こういう事例は過去にいくらでもあります。

何回やっても学習しないもんだなと。

お医者さんを信用しすぎるのも良くないですよというお話と、薬局からの問い合わせにはカルテを確認して対応しましょうねというお話です。処方箋を甘くみるな。(過去にもこの話はやってます)

尼崎総合医療センター医師
が小児の薬を10倍量で処方|
→院外薬局からの指摘があるもスルー|→小児が意識障害

今回はうっかりというより、構造・システム的な原因がありますので、そこをなおしていかないとおそらく直りません。twitterでも発現されている方はいますが、このようなパターンは繰り返されます。

記事を貼っておきますね。

兵庫県尼崎市の病院で、小児科医が、幼い男の子に基準値をはるかに超える量の薬を処方していたことが分かりました。

兵庫県によると、尼崎総合医療センターに勤務する男性小児科医(20代)は、胃腸炎だった未就学の男の子に対し、抗けいれん薬を1日あたり「70mg」処方しようとしました。

しかし誤って10倍の「700mg」と処方箋に記載したということです。

院外の薬剤師から量が多すぎると指摘がありましたが、看護師から報告を受けた医師は、服用回数の問い合わせと誤解して「記載の通りでいい」と返答していました。

男の子は薬を飲んだ後軽度の意識障害を起こして救急搬送され、3日間入院しましたが、現在は回復し、後遺症はないということです。

兵庫県は「再発防止に努める」としています。

処方箋を「書き間違え」…”10倍の量”を処方 幼い男児が一時「意識障害」 尼崎総合医療センター

どうやら量が多すぎたみたいですね。死人が出なかったのが不幸中の幸いです。

詳細は明らかにされていないので、とりあえず事実と原因を考えていきましょう

この記事に対する周りの反応(医療従事者らしき人達を主に選択)

SNSではこのような反応になっています

https://twitter.com/psryota/status/1255281662121951236?s=20
https://twitter.com/SKNHKN_O_721/status/1255316335711662080?s=20

こんなもんでいいでしょう。これ以上はページが重くなってしまいます。

構造・システム的な問題とは

医療事故・過誤には背景がたくさんあるというものです(ハインリッヒ)
なにが問題だったのでしょうか

病院のシステムの構造と、保険医療としてのシステムの構造両方の問題があります。

それぞれ説明していきます

①病院のシステムの構造的な問題

処方箋の間違いが悪というわけではない

今回10倍の量で処方箋を切ってしまった尼崎総合医療センターの医師ですが、やはり人間ですから。カルテや処方入力を打ち間違えてしまうことはありますし、ある意味しょうがない部分ではあります。

薬剤師が薬局で処方誤りがないかを確認している

間違えた処方箋を出していると判断できるのは医師と薬剤師くらいのものです。

処方箋が間違えていたときのために薬局が存在しているという側面がありますので、普段は誤った処方が来ていても薬剤師が医者に確認することで事故を防いでいます。
これは法律で決まっています。つまり、そもそも医師が誤った処方をするという前提で法律が決まっているわけですね。

ここで重要な点があります。誤った処方があったとして、薬剤師は処方を変更することはできません。

処方を変更する権利があるのは医者(薬剤師は不可)

薬剤師はおかしい処方箋に対して問い合わせる義務があります。もし問い合わせるべき内容であるのにしなかった場合は違法です。

問い合わせをするまでというのが薬剤師の限界

処方を変える権利を持っているのは医師だけです。薬剤師は問い合わせ(以降疑義照会とします)までしかできません。

明らかにおかしいのにどういうわけか処方を変えてこない医師もいます
(問い合わせを見ずに「それでいいから」と返答するという最悪のケースもあります)。

そういう場合には薬剤師は
①明らかにおかしいから薬を出さない(処方箋は返却する)
②もう一度問い合わせをする
③疑義照会はしたので薬を出す(これは違法になるケースもあります)
という3つの選択肢があります。

医師の返事次第では患者が薬をもらえないという状況も発生するわけですね。

以上を踏まえた上で構造的な問題とは何なのかということを説明していきます

問い合わせは伝言ゲームみたいになっている

患者が処方箋を持ってくる時間帯では大抵の医師は診察をしているので、直接電話で医師とやりとりできることはまれです。(大きい病院ほどその傾向があります)

そのため、薬局からの問い合わせが来ると、

電話を受け付けた人(事務員)が看護師に伝えて、その看護師が医師に内容を引き継ぐ…

というような伝言ゲームみたいになります。
(病院の薬剤師が引き継ぐ場合もあります)

つまり、代理の人間が内容を医師に引き継いでいる

ということです。今回の間接的な原因はここでしたね。

代理の人間が代理の人間に引き継いで…というのを続けていくと、そのうちどこかでニュアンスが変わります。
医師に届く頃には正確な意味が伝わらずに異なるニュアンスで伝わることもあるでしょう。

これが病院のシステム的な構造の問題です。

では、引き継いでるのが悪かったのか?

それは違うと私は考えます

医師が問い合わせが来ているにも関わらず、カルテを見ずに返事をしたのが問題

これが問題だったのです。なぜこんな自体が起こったのでしょうか。

②保険医療としてのシステムの問題

ここから、別のシステムの問題の話をします。

これは疑義照会を甘く捉えてしまう医師という構造に繋がります。

今回の医師は、薬剤師からの疑義照会を甘く見ていた

これについて説明しますね。だいたいの医療過誤はこれです。

ではなぜ疑義照会を甘く見てしまうのか。これも構造的な問題が少し関係してきます。

普段は薬局からしょうもない問い合わせが良く来る

これは保健医療でつきものにはなります。

普段から処方箋を発行しているとは思いますが、全額自己負担の(自費の処方箋)でない限りは、普通は保険医療の処方箋です。

健康保険を使っている処方箋は用途・用法が決まっている

この記事を読んでる人は医療に携わるかどうかに関わらず
「当たり前じゃん!」って思うはずです。

そうなんです。当たり前です。しかし、ここにお役所的日本特有文化の落とし穴があります。

保険適応的に用法(朝食後・夕食後等の使用法)は、本当にそのタイミングでしか使えない

わかりやすく説明するために、とある医薬品の添付文書(メーカーの出している説明書)を使います。

オロパタジン添付文書

これはとある抗アレルギー薬の添付文書です。

赤い丸をつけたところを見ていただきたい。

「朝及び就寝前の2回飲む」ということが書いてますね。

食事の影響などが問題なければ、普通に考えたら「朝と夕食後でもよくない??」別に無理して寝る前に飲む必要性ないよね?」と医師も考えるんです。

薬剤師としても、「就寝前に飲む分を夕食後に回すって話なら問題ないな。飲み忘れるよりそっちの方が良いでしょ」

と考えます。普通なら。

しかし、保険の審査をしているところはそうは考えません

審査支払機関は、用法通りに出していないと、返金を要求してくる|(仕事なのである意味仕方ないですが、何のためにやってるかは考えて仕事してほしい)

正直、薬局からすると本当に鬱陶しいです。こんな「正直どうでもいいような内容」についても
「医師に疑義照会しなさい」という風に支払機関が電話をかけてきます。

薬局が、「薬学的には問題ないのでこれで朝と夕食後で出しました」と言っても通用しないんですよね。

「そういう風に添付文書に書いてるので疑義照会してください」ということをずっと言ってくるんです。理屈じゃないんです。日本の役所と同じで融通が効きません。向こう(支払機関)からすると、医師・薬局の時間が圧迫されたり、患者の待ち時間が増えることなんてどうでもいいのかもしれません。

そういうわけで薬局はこんな

どうでもいいような内容でも

医師に問い合わせせざるを得ないという状況にあります。

病院も薬局もこういう問い合わせはどうでもいいと思ってます。
納得しないのは保健所と支払機関だけなんです
納得しない保健所と支払機関のためだけに無駄が毎日生産されています

そして、実際にこの問い合わせ件数はかなり多いです。

そういうことで、医師も
「いつものパターンでしょ?
 そ の ま ま で

という回答をすることになるわけです。

大事な疑義照会のときでも「いつものパターン」として思い込んでしまうわけです。

それが今回のパターンです。

院外の薬剤師から量が多すぎると指摘がありましたが、看護師から報告を受けた医師は、服用回数の問い合わせと誤解して「記載の通りでいい」と返答していました。

本質的な原因は今回の医師が「薬剤師からの問い合わせに対して軽く認識していた」こと

ということなんですよね。カルテを確認していれば気づけたはず。

少し本筋から外れますが、下の医療過誤の記事に言いたいことがまとまってますので、お時間あればご一読ください。

" target="_blank">京都大学医学部附属病院の炭酸水素ナトリウム(メイロン)誤投与のアレ。過量投与の医療事故について医療者的立場から考察

問い合わせが来たら内容を確認してください
カルテも見ましょう。これにつきます。
当たり前。

で、以降の防止のためにどうするの?
これが一番大事

今回の件、医師も薬剤師も訴えられて裁判沙汰になってもおかしくない事例でしたが、対応がよくわからないですね。無罪放免でしょうか?

何のために高いお金を貰っているのか。再発防止のために具体的にどうするのか。

それが記事には一切書かれていない。ということで調べてみました。

兵庫県立病院における医療事故の公表について

ここからは管理人の個人的な感想です

再発防止の対応が微妙
(フワッとしている)

尼崎総合医療センターの見解なのか、兵庫県の単位での見解なのかわかりませんが、このように原因と対策を述べています。

原因

主に3つ挙げていますね

  • 担当医が処方箋の内容を十分に確認していなかった
  • アラートシステムに成人の基準値しか設定していなかった
  • 院外薬局からの疑義照会が担当医に正確に伝わらなかった

対応策

  • 処方箋の内容確認を徹底するアラートシステムに、小児の年齢ごとの基準値を設定する
  • 薬局からの疑義照会の様式を見直すと共に、正確な情報伝達を徹底する

以上が報告書に挙がっている分ですが、

全体的にフワッとしている」と感じました。

言ってるだけに感じるというのでしょうか。

例えば、対応策に「処方箋の内容の確認を徹底する」という内容がありますが、

徹底って何?フワッとしてません?

我々というか、被害を受けた人もそうですしこれで皆様は納得します?

気持ちだけの徹底ではほとぼりは冷めます。すると忘れた頃に、同じことが起こりますよね。
具体的な「徹底」の手順も合わせて内容を明らかにするべきではないでしょうか

アラートシステムについては、「まあやったほうが良いですね。」くらいのものでしょうか。本質的な原因ではないですが、止められる手順はあったほうがいいです。

薬局からの疑義照会の様式を見直すと共に、正確な情報伝達を徹底する

という解決策ですが…

これもフワッとしていますね。

正確な情報伝達の徹底ってどうするのでしょうか?

電話を受けた人・看護師のどちらかが

薬剤師からの問い合わせにずさんな対応をしていた」んじゃないんですか?
電話対応に責任を持つという認識があったんでしょうか

薬局からの問い合わせを甘く見てたのではないんでしょうか?

そういう意識の改善からしないとこういう医療過誤はなくならないと思いますよ。

医師の先生もそういう問い合わせに対して認識を改めるとか、そういった見直しが必要なのではないでしょうか。

ふわっとしたことを書くと、推測でいろんなことを書かれるのは仕方ないですね。

私の考えでは、「電話受付の人間のせいにしておけば今回は責任を逃れることができそうだからそういうことにしたんじゃあないのか?」という風に思ってしまいましたけどね。まあ報告書通りということで…

薬局業界や医療業界についてのテーマを扱ったり、
服薬指導や生化学等の基本的内容を記事にしたりしています。
また、気になる話題とかSNSにコメント頂けると記事にすることがあるかもしれません。
薬学部生のように業界のトレンドとか全然わからない方はフォロー頂けると
薬剤師界隈でのトレンドとかつぶやいてるので、良いかなと思います。
某呟きアプリケーション
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以上です。

関連記事も含めて色々書いてあるので一番下まで読んで頂けると幸いです

直接は関係ないですが、業界内容の記事なので良かったら読んでみてください

かかりつけ薬剤師制度について
不正請求問題

コメント一覧
  1. より:

    大変良い記事と思います
    今回の事件について本来とるべき対応やその背景にある問題まで
    薬剤師業務を理解しているだけでなく、志のある方の文章と感じました。
    私もSNSで疑義照会について警鐘しているのですが、
    この記事が多くの薬剤師の目に留まる事を願います。

  2. 中堅ナース より:

    看護教育(安全教育)の題材の1つに使用しようと思い、貴殿のブログにいきつきました。
    記載内容、とても勉強になります。ほんとに同意できます。

    処方入力ミス(タイプミス)は、誰にでも起こりうることなので、そのようなことがあっても事故につながらないシステムは重要ですよね。
    人的な教育は必要ですが、これはかなり難しいので、まずは、システム的なところで、科(小児科)だったり、年齢を判断し、小児用量の上限を超えたらPC画面に警告がでるような設定が必要ですね。

    私は看護師として、問い合わせ(FAX?)の取り継ぎをした看護師の責任感のなさを感じました。
    問い合わせを受けたのであれば、ただそれを伝えるのではなく、問い合わせの本質を理解した上で、医師に確認を取るべきだと考えます。
    「10倍量処方していいの?」と聞けば、「それ間違い!」となったはずです。
    実際問題となるのは、医師と薬局だと思うのですが、看護師にも大きな問題があるなと思いました。

    とりあえず、看護教育では「6つのR」の確認をし、今回の場合は Right Doseではないので、指示受けたら×、と教育しようと思います。

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