ビグアナイド系の副作用として有名な乳酸アシドーシスですが、病態や原因について説明できる人はどのくらいいるのだろうか…
添付文書や、書籍を見ていると、「知っていることを前提にして対応策等の話をすすめる」という状況が散見されていますね。
一度まとめて簡単に記載するべきかと思ったので、記事投稿してみました。
Contents
病態
乳酸アシドーシスは、乳酸の過剰な産生や、代謝異常によって、血中の乳酸の濃度が上昇し、代謝性アシドーシスを生じた状態です。
アシドーシスは原因によって、代謝性のものと呼吸性由来のものに分類されています。
主な異常の場所が呼吸成分・代謝成分のどの部分にあるかですが、主な原因が
pCO2の変化の場合:呼吸性
重炭酸塩にある場合:代謝性
とされています。(尿細管性アシドーシス等もあるが長くなるため割愛)
代謝性アシドーシスの機序としては、不揮発性酸(CO2由来ではない酸を指します)の産生過剰or非効率的な代謝・排泄にあります。
例としては、ケト酸・アセト酢酸・βヒドロキシ酪酸が血中に蓄積する糖尿病性ケトアシドーシスや、乳酸が蓄積する乳酸アシドーシス
等が例として挙げられます。
アシドーシス時には、血漿中の水素イオン濃度は高くなっている。
このとき、過剰なH+は細胞内に入る際に細胞内のK+と交換で細胞内に入る(【K】-【H】交換体)ため、高カリウム血症を呈する場合がある
乳酸アシドーシスの直接の原因となる乳酸は、嫌気的解糖によって生成される。
嫌気的解糖と、好気的解糖のイメージはついておられるだろうか。
ついていることだとは思うが、一応念のために簡単におさらいしておきたい
グルコースを代謝に必要な経路で、解糖系と言われている。
基本はピルビン酸を産生するための経路でピルビン酸までは酸素を必要とせずに反応は進むが、
好気的条件下と嫌気的条件下では最終産物が異なる(ピルビン酸までの反応過程はかわらない)
解糖系では
グルコース1分子から2分子のピルビン酸が生成される。これはグルコースの炭素数が6、ピルビン酸の炭素数が3ということがわかっていればすぐにイメージがつくかと思われる。
酸素を必要としないエネルギー産生のための経路で、細胞質で行われている(細胞質の可溶性の酵素により触媒されている)。
嫌気的条件下では、ピルビン酸は乳酸に還元される。
嫌気的解糖の最終産物は乳酸なのである。
嫌気的解糖の説明のモデルとして赤血球が挙げられることが多いが
ミトコンドリアを持たず、好気的解糖ができないことと、生体内の細胞の中で唯一グルコースのみをエネルギー源とする赤血球だからこそ嫌気的解糖のモデルに利用されているのである。
好気的解糖では、ピルビン酸はアセチルCoAへ変換される。
このアセチルCoAは、TCA回路等で利用される
赤血球は骨髄の網状赤血球が成熟して形成される成熟の過程ですべての細胞小器官が排除される。核がないためDNA・RNAの合成もできず、タンパク質の合成もできない(リボソームがないため)、また、脂質の酸化もできない(ミトコンドリアがないため)ために赤血球のエネルギー源はグルコースのみに依存している。
代謝の過程で酸はつくられる
細胞内で代謝するうちに二酸化炭素が産生されます。
二酸化炭素は水に溶解し、炭酸となるが、その際に水素イオンを出します。
この過程以外での酸(CO2由来ではない酸)は定義として、不揮発性酸と言われます。
不揮発生酸は、腎臓を介して排泄されます(肺からは除去できない)
体内での緩衝
細胞外での水素イオン(H+)を中和する機構として、重炭酸緩衝液やヘモグロビンがあります。
細胞内での水素イオンはタンパク質とリン酸塩からなる緩衝液によって中和されています
細胞内で産生されたCO2は、細胞膜を通って拡散して血漿に溶解していて、またこのCO2は非酵素的に血漿中のH2CO3と平衡化しています。
緩衝物質 | 酸 | 共役塩基 | 緩衝作用の起こる場所 |
ヘモグロビン | HHb | Hb- | 赤血球 |
タンパク質(Prot) | HProt | Prot- | 細胞内液 |
リン酸 | H2PO4- | (HPO4)2- | 細胞内液 |
重炭酸 | CO2➛H2CO3 | HCO3- | 細胞外液 |
引用:ベインズ・ドミニチャク生化学第4版よりp365
血漿pHは、
pH=pK +log(HCO3-)/0.23×pCO2 で表される。
これは緩衝液の塩基成分と溶存CO2濃度比によって決定されることを表します。
血液pHが酸性に傾くにつれて、反応は右に進む
(H+) +(HCO3-)⇄H2CO3⇄CO2 +H2O
この反応により、過剰のH+は除去され、過剰なCO2は肺を介して呼気中に排泄される。
H+濃度が減少してきたときは緩衝液の炭酸成分が解離してH+を供給する。この時、CO2を保持するために、代償的に換気率は低下する。
pCO2の調節は肺の換気によって、HCO3の調節は腎臓と赤血球で行われている。
酸塩基平衡の呼吸成分と代謝成分は相互に調節しあっている。
例えば、呼吸器疾患等でCO2の蓄積が起きた場合には、腎臓でHCO3-再吸収等の代償的増加が起こる
一方、代謝異常(例:アシドーシス)により、HCO3-濃度が低下した際には、比を一定に保つためにCO2は排出される方向へ進むこととなる。
→pHが下がってアシドーシス傾向となった際には、呼吸中枢が刺激され、換気回数は上昇する(呼吸によりCO2を排出しようとする)
赤血球内での緩衝
(H+) +(HCO3-)⇄H2CO3⇄CO2 +H2O
この反応は、赤血球内に存在する炭酸脱水酵素により、左に進むように固定される。
わかりやすくするため、下のように書き直します。
CO2 +H2O⇄H2CO3⇄(H+) +(HCO3-)
炭酸脱水酵素は以下の反応を触媒する。
CO2 +H2O⇄H2CO3
また、生成したH+はヘモグロビン(Hb)により、緩衝されます。
【Hb-】+【H+】→HHb
赤血球内の反応によって生成されたHCO3-は、血漿に放出される際に、Cl-と交換されます。(Cl-シフト)
また、生成された一部CO2は、肺に運ばれ、排泄される。
腎臓での調節
近位尿細管
腎臓においても、HCO3-とH+の調節がされている。また、ここでも赤血球同様炭酸脱水酵素が利用されています。
HCO3-は近位尿細管で再吸収されるために、尿中にはほとんど含まれません。
近位尿細管細胞では、濾過された側の(内腔側)では、HCO3-は透過しません。再吸収されるためには、細胞内に入る必要があるため、別の形になって細胞内に移行します。
移行の仕方
HCO3-は、尿細管細胞から分泌されたプロトンと結合して、H2CO3の形になり、その後CO2の形となってから細胞内に移行します。(管腔膜に存在する炭酸脱水酵素が触媒)
(HCO3-の形では細胞内に入れないために、移行するためにCO2の形にされているというおおまかなイメージで大丈夫です)
細胞内では
細胞内に移行したCO2は、炭酸脱水酵素により、再び炭酸に変換され、その後HCO3-とプロトンに解離する。
解離したHCO3-はNa+-HCO3-共輸送体(NBC-1)によって血液中へ再吸収されます。また、プロトンは内腔に分泌され、再利用されます。
遠位尿細管
遠位尿細管では、再吸収の他に新しくHCO3-を生成してプロトンを排泄する
近位尿細管と同様にCO2の形で細胞内に入った後、HCO3-の形で血液中に再吸収される(担体は異なる)
遠位尿細管ではHCO3-の再吸収に加え、Hの排泄もされる。(近位尿細管ではプロトンの排泄はない)
遠位尿細管の内腔のHCO3-はほとんどが早期に再吸収されているため、内腔にはHCO3-はほとんど存在しない状態になっています
→プロトンはリン酸イオンと、近位尿細管で合成されたアンモニアによって回収され、排泄される。
アンモニアの合成について
アンモニアは、グルタミンからグルタミン酸への変換の際に産生される。アンモニアは管腔に分泌され、プロトンを補足する(アンモニウムイオンは細胞内へ移行しないため、そのまま排泄される)

近位尿細管では、Na+は、【Na-H交換体】(NHE3)※電荷省略
を介したり、イオンチャネルを通ったりグルコースやリン酸塩、アミノ酸と共に共輸送体を介して、管腔側から細胞内に入る。Na-HCO3共輸送体(NBC1)は側底膜に存在する。
管腔側の膜を刷子縁膜、血管側を側底膜という。
どうやら管腔側膜というのは、血液ではない側の方を指すよう。
ビタミンB1
最後に、解糖系の補酵素についても少し触れておきます。
ビタミンB1は、ピルビン酸脱水素酵素の補酵素です。
ピルビン酸脱水素酵素は、ピルビン酸をアセチルCoAに変換する役割がありますので、
ビタミンB1が欠乏すると乳酸が溜まりやすくなることになります。
症状・治療等
乳酸アシドーシスの直接の原因は乳酸の蓄積であるが、ではどのような要因によって乳酸が蓄積するのか。
乳酸が溜まる原因は、ショック(循環不全)、低酸素血症(乳酸生成傾向)、呼吸不全、腎不全(排泄減少)、肝不全(乳酸代謝の低下)、一酸化炭素中毒、心不全、ビタミンB1欠乏(乳酸生成傾向)、アルコール過剰等様々である。
このページの内容で理由の説明がつくものとつかないものがあると思われるが、
低酸素血症、呼吸不全、腎不全あたりとの関連が説明できるようになっていれば良いかと管理人個人的には思う。
臨床症状
胃腸症状、倦怠感、筋肉痛、過呼吸等が見られることが多い。症状は様々である
診断
血液ガス分析でpH3.5未満、血中乳酸濃度5mmol/L(45mg/dl)以上であれば一般的に乳酸アシドーシスと診断される、
治療方針
アシドーシスの補正
炭酸水素ナトリウムの投与(pH7.2-7.5あたりが目標)
低酸素血症がある場合
酸素を投与
低血圧・ショックを認めた場合
ヴィーンF注(輸液)の投与 (心原性以外の場合)
5%ブドウ糖液 (心原性の場合)
低栄養・アルコール中毒によるビタミンB1欠乏が認められた場合
ビタミン剤の投与等
心不全・循環不全・ショックで点滴への反応が悪い場合
ドパミン・ドブタミンの投与
(引用:今日の治療方針2019 乳酸アシドーシス頁より)
以上です。気になる題材などあればコメントに残していただければ記事にするかもしれません。
素材もいただけると助かります