メトホルミン(ビグアナイド系)
メトホルミンについて記載します
1. 開発の経緯
ビグアナイド剤(以下 BG 剤)の歴史は古く、中世のヨーロッパで Galega officinalis(Goat's rue あるいは フレンチライラック)に血糖降下作用があることが知られていた。その植物の抽出物であるグアニジン が血糖降下作用を有することが 1918 年に報告され、1950 年代にその類縁体であるビグアナイド剤が相 次いで開発された。メトホルミンは、1958 年にフランスの J. Sterne によってその血糖降下作用が報告され、本邦では、1961年 1 月にメルビン錠(2011 年販売終了)として承認を受け、長く使用されてきた。
メトグルコインタビューフォーム
しかしながら、1970 年代後半、BG 剤の 1 つであるフェンホルミンによる乳酸アシドーシスが問題とな り、同じビグアナイド系薬剤であるメトホルミンの効能・効果、用法・用量、使用患者にも制限が加え られた。以来、本邦では長い間、欧米諸国よりも低用量で使用されてきた。 一方、海外では、UKPDS(UK Prospective Diabetes Study)など日本の承認用量を大きく上回る用量のメ トホルミンを用いた大規模臨床試験が実施され、メトホルミンの有効性、安全性が実証されてきた。 こうした背景から、当社では、日本人におけるメトホルミンの効能・効果、用法・用量を再度検討する ため、2003 年に Merck Santé 社(本社:フランス)から、世界 100 ヵ国以上で承認され、豊富な臨床及 び非臨床のエビデンスを有する「Glucophage®」を導入し、日本人において既承認用量の 750mg を上回る 投与量での有効性、安全性を確認した。「メトグルコ®錠 250mg」の販売名で新医薬品として申請を行い、2010 年 1 月に承認を受けた。また、2012 年 8 月には、「メトグルコ®錠 500mg」が承認された。 また、小児の用法・用量の追加について「医療上の必要性の高い未承認薬・適応外薬検討会議」での検 討結果を受けて、厚生労働省より開発要請がなされた。当社はこの要請を受けて臨床試験を実施し、2014 年 8 月には、小児に対する用法・用量の一部変更が承認された。
昔から使用されていた薬ですが、他のビグアナイド系で乳酸アシドーシスが問題となり、規制がかかりました。ですが、海外での使用は続き、臨床成績で有効性・安全性が確認されたために現在はよく使用される薬となっています
(1)維持量として 1,500mg/日までの投与が可能である。 (本剤の承認された用法・用量は、「通常、成人にはメトホルミン塩酸塩として 1 日 500mg より開始 し、1 日 2~3 回に分割して食直前又は食後に経口投与する。維持量は効果を観察しながら決めるが、 通常 1 日 750~1,500mg とする。なお、患者の状態により適宜増減するが、1 日最高投与量は 2,250mgまでとする。通常、10 歳以上の小児にはメトホルミン塩酸塩として 1 日 500mg より開始し、1 日 2~3 回に分割して食直前又は食後に経口投与する。維持量は効果を観察しながら決めるが、通常 1 日500~1,500mg とする。なお、患者の状態により適宜増減するが、1 日最高投与量は 2,000mg までとす る。」である。)
メトグルコインタビューフォーム
(「V-2.用法及び用量」の項参照)(2)インスリン分泌を介さず、肝糖新生抑制、骨格筋・脂肪組織における糖取り込み促進及び小腸からの 糖吸収抑制により血糖を低下させる。(「VI-2. 薬理作用」の項参照)
(3)2 型糖尿病患者を対象とした臨床試験において、HbA1c 値、空腹時血糖値及びグリコアルブミン値を改善し、良好な血糖コントロールを維持した。 (「V-3-(2) 臨床効果」の項参照)(4)肥満、非肥満にかかわらず、同程度の血糖降下作用を示す。(5)重大な副作用として、乳酸アシドーシス、低血糖、肝機能障害、黄疸、横紋筋融解症が報告されている。
【用法・用量に関連する使用上の注意】
中等度の腎機能障害のある患者(eGFR 30mL/min/1.73 m²以上 60mL/min/1.73 m²未満)では、メト ホルミンの血中濃度が上昇し、乳酸アシドーシスの発現リスクが高くなる可能性があるため、以 下の点に注意すること。特に、eGFR が 30mL/min/1.73 m²以上 45mL/min/1.73 m²未満の患者には、 治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること。〔「重要な基本的注意」、 「重大な副作用」、「薬物動態」の項参照〕投与は、少量より開始すること。
投与中は、より頻回に腎機能(eGFR 等)を確認するなど慎重に経過を観察し、投与の適否及び投与 量の調節を検討すること。 効果不十分な場合は、メトホルミン塩酸塩として1日最高投与量を下表の目安まで増量することができるが、効果を観察しながら徐々に増量すること。また、投与にあたっては、1 日量を 1 日 2~3回分割投与すること。中等度の腎機能障害のある患者における 1 日最高投与量の目安
メトグルコインタビューフォーム
推算糸球体濾過量(eGFR) (mL/min/1.73 m²) | 1 日最高投与量の目安 |
45≦eGFR<60 | 1,500 mg |
30≦eGFR<45 | 750 mg |
成人:維持量としては1500mg、最高用量としては2250mg
小児:最高用量は2000mgとされています。
また、腎機能低下患者の用量の基準は、eGFRによって設定されています。
主な作用→肝臓での糖新生の抑制です。(後述)
腸管における糖の吸収速度を抑える作用
抹消でのグルコースの取り込みと利用を抑制
また、食欲低下作用により、体重減少を生じると考えられています。
インスリン分泌は介さないのが特徴→作用としては弱め
主に消化器症状に注意する(悪心等)
メトホルミンは、乳酸アシドーシスのリスクが有るため、腎機能障害の患者では禁忌です。
乳酸アシドーシスリスクとなるもの→心不全(酸素循環不良)・アルコール中毒(脱水)、ビタミンB1欠乏等
また、メトホルミンの長期間の投与は、ビタミンB12の吸収を抑制する可能性が示唆されています(→貧血と関与の可能性)
低血糖にも注意必要
服薬指導
低血糖症状、低血糖症状出現時対応説明。
他、横紋筋融解症注意
症状:過呼吸、倦怠感、筋肉痛、胃腸症状等、高K傾向
ヨード造影剤によりリスク上昇(原則として、ヨード造影前一時休薬が望ましい)
下痢や嘔吐、発熱による脱水に注意
乳酸アシドーシス(倦怠感・筋肉痛、悪心嘔吐等の胃腸症状)
横紋筋融解症(筋肉痛、脱力感、赤褐色尿等)CK値注意
低血糖(動機、異常な空腹感、手の震え、集中力低下、発汗等)
肝障害(ALT、AST,γ-GTP等)
β遮断薬投与による低血糖症状のマスキング
多嚢胞性卵巣症候群(産婦人科)に対して用いられることがあります。
メトホルミン250mgを3錠分3や2錠分2ほどの用量で用いられます。
この病気の病態としては、排卵障害、インスリン抵抗性、肥満やテストステロンの上昇等様々です。
主な注意点としてはこのあたりになるかと思います。
最後に、作用機序の肝となる、糖新生について追加しておきます
糖新生
概要
糖新生は、グリコーゲン分解とはまた別の、血糖維持機構です。糖新生は基本は絶食時に行われるため普通に生活しているならば、就寝〜朝食前に活発になります。
また、グリコーゲンが枯渇しはじめる食前あたりにも少し活発になっています。
糖新生においては、生合成のためのエネルギー源と、炭素供給源(グルコースの材料)が必要となります。
糖新生をするためのエネルギーは
脂肪酸の代謝によって供給されます(脂肪組織から供給)
炭素骨格の供給ではいくつかの供給源があります。
- 赤血球・筋肉等で作られている乳酸
- アミノ酸(筋肉のタンパク質)→アラニン
- グリセロール(脂肪組織でのトリグリセリド分解により供給)
この中で、主な供給源となるのは、脂肪や筋肉の量のバランスよりますが、基本は筋肉タンパク質由来のものになります。
筋肉が少ない人では脂肪のほうが多く利用されます。
わかりやすい例で言えば
絶食でダイエットしている人は、脂肪だけではなく、筋肉の量もへらしてダイエットしていることになりますね。
脂肪は糖新生のエネルギー源等として用いられ、アミノ酸はグルコースの骨格に利用されています。
乳酸からの糖新生
乳酸からの糖新生は、1つの細胞内で完結する糖新生(肝臓・腎臓)と、完結しない糖新生がある
筋肉での糖新生では肝臓を介さなければ完結できない。
基本は解糖系の逆反応であるが、不可逆な経路もあるため、異なる酵素が利用されている部分もある。
まず、乳酸は、乳酸デヒドロゲナーゼの作用により、ピルビン酸へと変換される。
このピルビン酸は、そのまま解糖系の逆反応になるわけではなく、一旦ミトコンドリアに移動する
その後ピルビン酸は、ピルビン酸カルボキシラーゼの作用によって、オキサロ酢酸へと変換されます。 ※ピルビン酸カルボキシラーゼの補酵素はビオチン。(ATPも消費する)
オキサロ酢酸は、ミトコンドリアのリンゴ酸デヒドロゲナーゼにより、リンゴ酸へと還元された後に細胞質へ移動する。
さらに、細胞質へ移動したリンゴ酸は、リンゴ酸デヒドロゲナーゼ(細胞質にも存在)により、オキサロ酢酸へとまた変化されます。(オキサロ酢酸のままではミトコンドリア膜を透過できないと考えると合点がいきます)
このオキサロ酢酸は、ホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼによりピルビン酸へと変換され、ここからは解糖系をさかのぼっていきます。
糖新生の固有の反応は、
フルクトース1,6ビスリン酸→フルクトース-6-リン酸(フルクトース-1,6-ビスホスファターゼ)
グルコース-6-リン酸→グルコース(グルコース-6-ホスファターゼ)
の経路です。(解糖系でキナーゼだった部分)
※ピルビン酸キナーゼも糖新生では働きません
糖新生では、この経路はホスファターゼになっています。
- ピルビン酸カルボキシラーゼ
- ホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ
- フルクトース-1,6-ビスホスファターゼ
- グルコース-6-ホスファターゼ

糖新生の基質
先程述べた糖新生を行いたいところですが、題名の通り、
筋肉はグルコース-6-ホスファターゼを持たないため、グルコースの形で血中に放出できません
→筋細胞は自身の細胞内で糖新生を進めることができません。
また、グリコーゲンについては自身の細胞内で利用する以外の使いみちができません。
→筋細胞は乳酸を放出して肝臓で代謝してもらうことで、糖新生をしてもらい、そこでできたグルコースを筋細胞に送ります。この流れをコリ回路といいます
コリ回路
①筋細胞が乳酸を放出→②乳酸が肝臓に運ばれる→③肝臓内で糖新生を進め、グルコース生成
→④グルコースを筋細胞内に運ぶ
低インスリン状態は筋肉でのタンパク分解を促す。
この状態では、主にアラニンが放出される。(アラニンの構造は乳酸に類似するため)
このアラニンが肝臓へ運ばれ、ピルビン酸へ変換され、糖新生を行い、グルコースを生成する。その後筋細胞へ運ばれます。
グルコース-アラニン経路
銀細胞でタンパク分解≒アラニン放出→肝臓取り込み→ピルビン酸へ変換し糖新生
→グルコース生成→筋細胞へ輸送
コリ回路との違いを簡単に言えば、乳酸からピルビン酸をつくるか、アラニンからピルビン酸を作るかの違いですね
絶食状態等により、グルコースが尽き始めると、ケトン体が第2のエネルギー源となります
グリセロールは、グルカゴンによる刺激によって、ホルモン感受性リパーゼにより、トリアシルグリセロール(脂肪)が加水分解される際に放出される。
トリアシルグリセロールから遊離した脂肪酸はアセチルCoAからのケトン体合成を更新します。
この合成により、アセト酢酸やヒドロキシ酪酸アセトンが生成されます。
上記のことが理解できていれば、乳酸アシドーシスになる可能性が高まることは想像できるかと思います。
また、乳酸アシドースのリスクや機序の基本は下記ページに書いてありますので、余裕があればご一読ください